30 juillet 2013
2人の編集者が語る「安彦良和」!ガンダムフロント東京「庵野秀明×氷川竜介 トークショー」レポート
庵野秀明さんから語られるアニメーター・安彦良和の仕事ぶりとは
前回の「安彦良和×板野一郎×氷川竜介 トークショー」に続く「ガンダムフロント東京スペシャルナイト第3弾」は、庵野秀明さんと氷川竜介さんによるトークショー。庵野さんは「安彦良和アニメーション原画集『機動戦士ガンダム』」で責任編集を、氷川さんは構成と編集を担当されていた。今回は原画集を中心に、庵野さんから見たアニメーター・安彦良和の仕事ぶりが語られていった。
庵野: | 氷川さんと喫茶店で話をしていたときに、氷川さんのほうから、安彦さんが『機動戦士ガンダム』で描いた原画のポジフィルムが残っているので、それをベースに安彦さんの原画集をいつか出したい、と聞いたのが今回の原画集を出版することになった始まりです。 |
氷川: | 私のほうは世間話的に振った話題のつもりではあったんです。でもその場で庵野さんから『やりましょう!』と賛同をいただいて。 |
庵野: | まずはサンライズさんの企画室に直談判をしたころ、最終的な判断は安彦さんにあるという話でした。それで安彦さんに直接お会いして、安彦さんにも納得していただいてはじめて企画として動き出して。その後はサンライズさんと、月に一度の会合をやりながら各所に散在している安彦さんの原画をサルベージしつつ、どういう本の構成にするかなどを練っていきました。 その後、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』も出版をしている角川書店さんに声をかけたら、『ぜひウチで出版を』ということになったんですね。準備自体は一年とちょっとだったんですけど、それからが長かった(笑)。 |
氷川: | 本を見ての感想はいかがでした。実は今回、感想を聞くのは初めてなんですけど。 |
庵野: | よかったです。一冊の本として残せるというのが大きいですね。原画は素材のままで手元にあっても仕方がないので、世の中の目に触れるよう残したかった。広く残すには出版という手段がいちばんいいんです。 |
「新世紀エヴァンゲリオン」の監督をはじめ、演出家としての仕事が知られる庵野さんだが、その出発点は実はアニメーターだった。『風の谷のナウシカ』や『超時空要塞マクロス』にもアニメーターとして参加。また『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』にはメカデザインで参加していた。
庵野: | アニメーターの描く絵がかっこいいと思ったのは、安彦さんの原画が最初だと思いますね。当時は田舎にいて、そういうものを触れることがいっさいなかったので、アニメ誌の表紙で安彦さんの原画が載っているのを見て初めて、『ああ、こういうふうに描いているんだ!』と。その衝撃はすごかったですね。 僕がアニメーターになろうと思った直接のきっかけは、安彦さんが描いたキャラクターの原画と板野さんが描いたメカの原画。動きのタイミングも含めて、『こういうものを自分もやりたい!』と。それがやっぱりいちばん大きかったですね。 |
『機動戦士ガンダム』がTV放映されていた当時は、庵野さんもひとりのアニメファンだった。庵野さんはその鋭い観察眼でもって、安彦さん、板野さんといった当時第一線で活躍していたアニメーターたちのすばらしさを、トークショーでも実例を挙げながら熱っぽく語ってくれた。
庵野: | アニメーションのおもしろさをつくりだす要素はたくさんありますけど、その中で最も要なのは“絵”であると思うんですよね。 富野(由悠季)さんの絵コンテを安彦さんがレイアウトを切って、原画にしたのが『ガンダム』にとってすごくラッキーなことだった。それがひとつでも欠けていたら、ちょっと残念な作品に終わっていた可能性が高いですね。 |
氷川: | 今日の目から見ても、完璧というのは大げさかも知れないですけど、やりたいことがひととおりアニメーションで絵になっている。 |
庵野: | 安彦さんは漫画や一枚絵もいいんですけど、アニメーションでの原画のいいところはタイミングがすばらしいんです。人間としての動きをモビルスーツがちゃんとトレースしていて、重力と質量が画面で動きに出ているんですね。 ほかにも劇場版『ガンダムIII』でゲルググとガンダムがビーム・サーベルで一騎打ちをするところでのスローモーションの使い方とか。スローモーションからノーマルのスピードに戻るタイミングもまた気持ちいいですよね。 |
庵野さんは、安彦さんが描く“モビルスーツの目”にも観察の目を注いでいた。ガンダムのツインカメラやザクのモノアイは目線を意識して描かれて、どこを見ているかがわかるそうだ。ちょっと上目遣いで目が顔の中心からズレている。それはCGだとなかなか表現できない。そのズレが手描きにはあって、そこがいいところだと分析していた。さらに安彦さんの描くスピードにも注目。
庵野: | 当時のアニメーターは手が早かった、今の時代も手の早いアニメーターは何人かはいるけど、今のメカは線が多い。RX-78-2ガンダムを一枚描くのとνガンダムを描くのとでは、線の量が違ってくるので、物理的に鉛筆を動かす時間でどうしても違ってくる。そこはしょうがないですね。 |
氷川: | だからといってCGでもないですよね。 |
庵野: | いやCGでいいところはCGに移行してもいいと思うんです。たとえば複雑なデザインの戦艦を動かすといった、CGにしかできないことはCGにやってもらう。そのうえで、手で描くことでよくなる部分は、やはり手で描いたほうがいい。ただ手で描く人がどんどん減っているんです。 |
そういったアニメーション業界の現状を踏まえつつ、最後に庵野さんはこの原画集を「これから業界に入ろうと思っている若い人に見てもらいたい」と。
庵野: | この原画集はもともと、アニメーターの人に見てほしいと思っていたんです。これからアニメーターになりたいと思っている人も、この原画集で30数年前に遡って、純粋で原初に近い“アニメーターの仕事”を見てみるのもいいかもしれないですね。 |
登壇してすぐに、傍らに設置されているコア・ファイターの巨大模型をまじまじと見つめる庵野さん。初めて見る巨大模型のコア・ファイターは、ディテールが気になっていたようだ。
安彦良和さんの原画を後生に残したいというのは、30数年間の積年の思いでした。それを『すぐやりましょう!』と賛同して、形にしてくださった庵野さんには感謝しています。庵野さんもおっしゃっていたように、人の手で描いて命を紡ぎ出すアニメーションのすばらしさを、トークショーに来ていただいた方、原画集を手にとっていただいた方を通して、いろんな方に伝えていければと心から願っております。今日はありがとうございました(氷川)
今日はついうっかり話がマニアックな方向に行ってしまいました(笑)。アニメーションの生成物というのは、作品が完成したらその多くは廃棄物として処理されているんですよ。アニメーターの手で描かれた原画の多くはそうで、アニメに限らず特撮作品のミニチュアも同様です。でもそれは文化遺産として後生に残していきたいという願いがずっとありました。僕はアニメや特撮を見て育ちましたので、今の自分があるのはそういうもののおかげだと思っています。そのご恩返しとして今回のような活動を一生かけてやっていきたいなとも思っています。ほかにもいろいろやっていきますので、皆さんよろしくお願いします(庵野)
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