23 mars 2016
「MECHANICAL CITY INAGI PRESENTS メカデザイナーズサミットVOL.04」レポート
稲城にガンダム&シャア専用ザクの大型モニュメントが立つ!
メカニカルデザイナー・大河原邦男氏をホストに迎えたトークイベント「メカデザイナーズサミット」が、今年も東京都稲城市で開催された。
今回で4回目を数える同イベントは、大河原氏の地元である稲城市の市立iプラザで3月19日(土)に開催され、メカバトルトーナメントや、大河原氏デザインの“稲城なしのすけ”グッズを自分で作ることができる体験コーナーなど、親子で楽しめる催しも行われていた。また、「トークセッション いなぎの魅力発信」では髙橋勝浩稲城市長、開米(かいまい)プロダクションの開米敏雄社長と、大河原氏がステージに現れ、髙橋市長から「メカニックデザイナー・大河原邦男プロジェクト」が発表された。
髙橋
プロジェクト第1弾として、JR南武線の稲城長沼駅高架下に作られる「いなぎ観光発信基地ペアテラス」の前に、ガンダムとシャア専用ザクの大型モニュメントを設置することになりました。また今後も稲城の各地に大河原先生の作品やモニュメントを置くことで観光スポット化を進めている予定でございます。
このモニュメントの設計、制作を担当した開米さんは「ゴジラ」や「ウルトラマン」などの特撮作品で怪獣の造型を長年にわたって手がけられてきた方で、稲城市に工房を構え、大河原氏とも親交が深いクリエイターだ。
開米
大河原さんには以前から「いつかいっしょに仕事がしたいね」と言ってくださっていて、今回ようやく念願が叶ってプロジェクトがスタートすることになりました。特撮関係だと時間に追われるような仕事が多いなか、今回は1年以上も猶予のあるスケジュールを組んでいただいて、かえって調子が狂ってしまって(笑)。それでも残り3ヶ月、2カ月のところでいつもの力が発揮できまして、ようやく設置に向けての作業が終了するところでございます。
故郷である稲城に、自身がデザインしたメカのモニュメントが立つ。そのことについて大河原氏は次のように語った。
大河原
私がこの仕事に就いた時代は、アニメーションに対する世間からの印象がよくなかったんですけれども、その当時にアニメを見ていただいていた方々がいまだによい印象をもっていただいていたので、このたび私の最寄の駅にこういう施設ができることになりました。私にとってはすごくうれしいことです。
当初は、すでにある大河原デザインの造型作品を展示するプランもあったそうだ。
大河原
当初はそのつもりでいたんですけど、妻から「やっぱりガンダムでしょう」と(笑)。皆さんが期待するのはガンダムでありシャア専用ザクでしょうと。お台場に1/1ガンダムはあっても、隣にシャア専用ザクはない。1/1とはいかないまでも、なるべく大きくて、しかも出来の良いシャア専用ザクを見てみたい方はいらっしゃるんじゃないかなと思いました。今回は、バンダイさんのガンプラにあえて寄せないように、1978年のTV放映当時の形に近づけたいなということを念頭に監修をさせていただいています。
大河原
ポイントとしては“太もも”ですね。女性には失礼かもしれませんが(笑)、女子高生の太ももみたいなシャア専用ザクにしたいということで、開米さんには泣いてもらってます(笑)。たぶんガンダムを見慣れている人にとって、4m弱のガンダムとシャア専用ザクが並ぶと、相当な迫力になるんじゃないかなと思っています。2体並びの光景はまだ私も見たことがないので、お披露目は私自身もワクワクしております。
全高約4mにもなるガンダムとシャア専用ザクの大型モニュメント。4月23日(土)にペアテラスがオープンし、同時にモニュメントもお披露目される。当日の式典には大河原氏をはじめゲストも出席する予定だ。
トークセッションに続いて、この日のメインであるクリエイターズサミットがスタート。引き続き大河原氏が登場し、ゲストである現代美術家の倉田光吾郎さん、ロボット建造師の石田賢司さんが登壇。これまでのサミットでは、大河原氏と同じメカデザイナーをゲストに招いてトークを繰り広げていたが、今回は趣向を変えて「1/1実物大ロボット最前線」というテーマ。また今回の出演者には共通点があり、皆さんみずから手を動かして、フィクションのメカニックを立体として現実に生み出している。倉田さんは、大河原氏の代表作のひとつ「装甲騎兵ボトムズ」に登場するスコープドッグを鉄を素材にして実物大で作ってしまった方だ。
倉田
僕はバリバリのアニメファンではなかったんですけれども、子供のころは夕方には必ずTVにロボットアニメが流れていた世代で、アニメはそんなに知らなくてもロボットのデザインは知っていて、カッコよかった。しかもスコープドッグは実際に一家に1台あってもおかしくないサイズ感だったんですよね。全高が約3.8mで。そんなことを考えつつ作りはじめたのが最初ですね。それにプラモデルも好きだったので、実物大ロボットを作るというよりも、1/24スケールのプラモデルを24倍にしてみたといった捉え方をしています。
大河原
倉田さんのアトリエにうかがったときに、スコープドッグがすべて鉄製で、球体状の肩も全部鉄板を曲げて溶接して作っていることを知ったんです。すごく影響を受けまして、帰ってすぐに溶接免許を取得しました。おそらく溶接免許をもっているメカデザイナーは私だけだと思いますよ(笑)。
1/1スコープドッグの完成後、倉田さんはさらに踏み込んで人が乗り込んで動くロボットの制作に着手する。それが「クラタス」だ。
倉田
スコープドッグから直結なんですけど、実物大が完成したときに意外とでかいなという驚きがまずあったんです。スコープドッグはプラモデルみたいに関節がフリーなんですね。だから直立させると4mのロボットがユラ~と揺れるんです。それを見たときの恐怖感がものすごくて。それから4mの構造物が立ち上がって動いたときに、自分はどう感じるのか?アニメーションに出てくるようなロボットが実際に存在したら人はどう感じるのか?好奇心がまずあったんですね。
クラタスは全高約4mのボディにタイヤが付いた4脚、両腕が付き、各関節が油圧で動く。重量は約3t。整地を走行し、左腕にはBB弾を撃ち出す2連装ガトリングガンを装備している。胸部には搭乗者1名が乗り込むコックピットがあり、内部にはモニターや操縦桿。まぎれもなく人が操縦できる巨大ロボットだ。
大河原
クラタスを作っているところを見学していちばん印象的だったのは“手”の美しさですね。あの“手”を見たときに、これはもうアートだなと思いました。
倉田
作業に入る前に、クラタスの模型を持参して大河原さんのところにうかがったんです。今度、こういうのを作るんですよって。模型をご覧になって大河原さんが「頭部がブラッドサッカーに似てるね」っとおっしゃてました(笑)。
大河原
やっぱり『ボトムズ』がお好きなんだなと(笑)。
さらにクラタスはアメリカから挑戦状が届いているとのことで、そう遠くない将来、人が乗り込んだロボット同士のバトルが実現するかも知れない。
▲現代美術家の倉田光吾郎さん[左]、ロボット建造師の石田賢司さん[右]
そして石田さんは1/1の自動車が本当にロボットへ変形してしまうという、「プロジェクト・ジェイダイト」を進めている。その第1弾として2014年に全長1.3mの「J-deite Quarter」が完成。2017年完成予定の第2弾「J-deite RIDE」は全長3.5mとなり、最終目標は、実際の乗用車と同じ全長5mサイズで走行、変形、2足歩行するロボットである。
石田
このプロジェクトを始めることになった要因のひとつで、大きなものが大河原さんがデザインした「エクスカイザー」だったんです。エクスカイザーはまさに自動車が人型に変形する主役ロボでした。
大河原
エクスカイザーは、当時「ゴールデンウィーク中の1週間でデザインしてくれ」とオーダーされて(笑)、アニメーションになった作品で。かなりタイトなスケジュールで作ったんですけど、それをずっと覚えてくださっているのはすごくうれしくて、幸せなことですね。石田さんと昨年、対談をしたときに「これは何のために変形するの?何か目的があって変形するんでしょ?」と私は疑問を投げかけたんです(笑)。よくよく考えるとそれは愚問で、変形すること自体に意味があるんですね。そこから何かが生まれてくるんです。
石田
私の場合は何かのために変形するんじゃなくて、これ(ジェイダイト)がオリジナルですから。私はオリジナルであるジェイダイトを具現化するということだけですね。変形することに意味を求める概念は、私にはないですね。そもそもロボットに変形するメリットはないですね(笑)。
2017年の完成をめざす「J-deite RIDE」は実際に人が乗り込んだままロボットに変形が可能で、ロボットの状態でタイヤを使っての自走もできる予定だ。こちらも完成が楽しみ。
▲メカニカルデザイナーの大河原邦男氏
トークはほかにも作品を実物大として完成させるうえでの苦労やエピソード、今後の展望など多岐にわたった。最後にタカラトミーのロボットホビー「ガガンガン」を操作しての、大河原氏と倉田さんの対決が実現。大河原氏は発売されたばかりのスコープドッグモデルを、倉田さんはクラタスモデルでバトルが開始。ちょっとだけガガンガンの操作に慣れていた倉田さんに軍配が上がり、ロボットへの夢がふくらむサミットは幕を閉じた。
※本文中、一部敬称略
(ガンダムインフォ編集部)
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